「デザインはデザイナーの仕事でしょ?」
「私はデザイナーじゃないよ!」
とお考えの方も多いのではないでしょうか?
一般的には、デザインというとグラフィックや美術、建築、服飾、広告など、デザイン=おしゃれな装飾をすること、とイメージされがちです。
しかし、デザイン/Designという言葉は「設計」と訳します。
設計とは、順序立てたプロセスに沿って誰かに何かを制作することであり、「おしゃれな装飾をすること」という意味合いとは違ってきます。
デザイン思考は、設計という言葉の意味に近いアプローチの方法で、「デザイン=課題を発見し、その問題を解決する」ということを、ビジネスに転用した考え方です。
そして、今やビジネスの現場で、デザイナーだけでなく、デザイナー以外の方がこの言葉が囁かれているように、デザイン思考は、イノベーションを起こすために、全てのビジネスパーソンが理解して、実践する価値があると信じています。
本記事では、デザイナーがデザイン思考についてその優位性と基礎的なナレッジをご紹介します。
デザイン思考とは?
デザイン思考(Design Thinking)とは、デザインに必要な思考方法を活用して、ビジネスの問題を解決するための考え方・手法です。
世界的に有名なデザインファームIDEOの創始者、ティム・ブラウンは、デザイン思考では革新的な課題の解決策にたどり着くために、デザイナーが使うさまざまなツールを活用すると述べています。
参考:IDEOU, Design Thinking: A Method for Creative Problem Solving
なぜ、デザインに必要な考え方や手法が、デザイナー以外に価値を見出されるのでしょうか。
なぜデザイン思考なのか?
これまでプロダクト・サービスは「作る・リリースする」というだけでユーザーから認知や評価がされてきました。
しかし、現代ではプロダクト・サービスを「作る・リリースする」ことは当たり前として、それ以上に「自分にニーズ合ってるかな」「こういう商品が欲しいな」とユーザーが消費者として、受け身ではなく、能動的に求めるようになりました。
アイドルでいえば、BABYMETALのような「メタル×アイドル」といったコンセプチュアルなアイドルが出てきたり、「会えるアイドル」がコンセプトのAKB48から乃木坂46、櫻坂46、「K-POPアイドル」のNiziUなど、大人数のアイドルグループでとなり、その中に推しがいるという構造になったと思います。テレビよりもネットが観られる現代では、アイドルも多種多様になっています。
一方的に「モノ」を作るだけで評価される、という時代は過去となり、ニーズが多様化し変化の激しい現代(VUCA)では、ユーザーの視点に立ち、モノだけではなく「コト」=体験という付加価値を作る時代なのです。
つまり、現代のビジネスにおいて、ユーザーの体験をどう作るかという考え方・手法、すなわち、デザイン思考が重要なのです。
- Volatility(変動)
変化の質・大きさ・スピード等が予測不能であること - Uncertainty(不確実)
これから起こる問題や物事が予測できないこと - Complexity(複雑)
数多くの原因などが複雑に絡み合っていること - Ambiguity(曖昧)
物事の原因や関係性が不明瞭であること
の頭文字を取った言葉です。
これは、これら4つの要因によって、予測不能な状態を表す言葉です。
デザイン思考の成功例
「ドリルを買いに来た人が欲しいものは、ドリルではなく壁の穴である」
出典:T・レビット「マーケティング発想法」
という、有名な言葉があります。顧客のニーズをそのまま受け取り様々な種類の電動ドリルを紹介するのではなく、その人に共感し、何が本当に必要なニーズかを理解(=課題発見)した上で、必要な解決策を提供することが、真の課題解決のためには必要です。「壁に穴を開けて家族の写真を飾りたい」というニーズが分かればドリル以外の解決策も幅が広がります。
デザイン思考は、「ユーザーが本当に悩んでいることは何か」「どのように解決するか」「なぜ必要なのか」「ユーザーが価値を感じるポイントはどこか」など、常にユーザー視点でプロセスを進めます。ユーザー視点の定性的な要素と、ビジネス観点の要素が揃って初めて、その事業・サービスには価値があると言えます。
デザイン思考のマインドとプロセス
ここまでの記事で「課題解決」や「ユーザー視点」などキーワードがたくさん出てきました。
では、実際にデザイン思考を実践する上で、デザイン思考を支えるマインドとプロセスについて具体的にご紹介します。
マインド
- Whyの深掘り
- ユーザー視点
- 失敗から学ぶ
Whyの深堀
イノベーティブと呼ばれる多くの企業やサービスが開発において取り入れているデザイン思考ではWhyを考えることを重視しています。ユーザーの潜在的な問題に迫ることを重要視する上で、ユーザーの行動や発言に対して、Whyを知ることが重要になるためです。
既存事業の維持や拡大が重視される場合は、効率的なオペレーションが重要視されることが多く、WhatとHowだけです。
確かWhatとHowを考えるだけでにモノを作ったりリリースしたりすることはできるでしょう。しかしなら、「そもそもなぜなのか?」というWhyを突き詰めて考えることは、大きなマインドセット変革に繋がります。Why + What + Howがセットです。
ユーザー視点
WhatとHowだけの技術起点で考えられたのではなく、日常のちょっとした不満を解決できないか?とユーザー視点を深掘りすることで、多くのイノベーティブなサービスが生まれています。
従来のマーケティング手法で行うニーズ調査よりも、ニーズより深い「価値」の追求をします。
しかし、「お客様至上主義」と「ユーザー視点」は別物です。似て非なるもの、全く違います!
日本企業はおもてなし精神とヒエラルキー文化により、「お客様の言うことは絶対」というマインドです。「ユーザーが欲しいと言ったことをなんでもかんでも詰め込むのが良いサービス・プロダクト」という考え方が強いです。
一方、ユーザー視点の考え方は、「ユーザーのことを徹底的に考え抜くため、ユーザーよりもユーザーのことを理解している」と言う立場をとります。そのため、ユーザーの欲しい(Want)と言ったものをそのまま作るのではなく、ユーザーに本当に必要なもの(Need)を提供します。
結果として、ユーザーが「使わざるを得ない」ほど価値のあるサービスを生むことができるのです。
失敗から学ぶ
デザイン思考のマインドセットは、失敗から学ぶことで会得できます。
GoProのファウンダーであるNick Woodmanは、GoProの前にFunBugというゲームおよびマーケティングのプラットフォームを立ち上げて、失敗しています。いまは成功者でも、必ずと言って良いほど過去に失敗をしています。
日本の社会では、一度失敗するとそれを覆すのが難しいため、失敗への抵抗感が大きく、企業側、起業家、ユーザーといった社会全体として「いかに失敗しないか」が評価の基準とすることが多いです。
しかし、イノベーティブに新しいものを作り出すときに失敗しないことはあり得ません。失敗を失敗と捉えず、「改善のためのアイディア」と捉えるマインドが必要です。
アウトプットしなければ、成功することもありません。どんどんアウトプットして、失敗してもフィードバックから改善していけばいいのです。「失敗から学ぶこと」に価値を置きます。
プロセス
- Empathize:共感・理解
- Define:定義・明確化
- Ideate:アイディア発想
- Prototype:プロトタイプ
- Test:テスト・検証
Empathize:共感・理解
ターゲットを観察し、深層心理をしっかり理解して共感するのが重要です。ここで大事なことは、マインドにもある常にユーザー視点を持つことです。ターゲットユーザーの目線で考えることで、潜在的なニーズを掘り起こすことが目的です。具体的にはユーザーインタビューやユーザーテストを繰り返し、コンセプトやアイデアの精度を上げていきましょう。
Define:定義・明確化
ユーザーのニーズを明確にします。このフェーズでは、さらに掘り下げた観察と問題定義を繰り返しながら、コアとなる問題をクリアにします。単純にユーザーが「これが欲しい」といったソリューションではなく、「この問題を解決したい」というニーズにフォーカスを当てるのが重要。
場合によっては「そもそも観察対象が違うのではないか?」といった、根本的な軌道修正が求められる場合もあります。
固まりかけている仮説を壊すことは勇気がいりますが、すべてはユーザーへ優れた体験を提供するためです。チームメンバー全員の認識がぶれないように、最終的な形をゴールやコンセプトという形で定義しましょう。
Ideate:アイディア発想
アイディエーションとは決して良いアイデアを出すことではなく、新しいアイデアを生み出していくクリエイティブなプロセスそのものを指す
どんなアイデアがユーザーに受け入れられるか、思いつく限りのアイデアを発散します。現実性は考慮せず、とにかく発散することが重要です。
この後のプロトタイピング、検証で、徐々にコアの問題解決になるアイデアが見つかります。発散したアイデアを決定および検証する際は、仮説をより具体的にする事が大切です。
Prototype:プロトタイプ
アイデアが出たら、検証するためにすぐにプロトタイプを作成します。プロトタイプとしてアイディアを形にすることで、文字や言葉で説明するよりも単純に、そして感覚的に理解しやすいものになります。アイデアを具現化することで、イメージが湧きやすくなり、これまで気付けなかった点に対する改善策を打ち立てやすくなる。
プロトタイピングツールを使えば、口頭では伝えきれないアイデアを再現できるので、ユーザーテストや、提案プレゼンの際に説得力が増します。結果的に裁量がある上長の承認をもらいやすくなり、プロダクトづくりにおける意思決定がスムーズになります。また、プロトタイプを作成することで、開発メンバーが技術的な実現可能性をはかることができます。
Test:テスト・検証
プロトタイプが出来たらすぐ、ユーザーから出来るだけ多く、そして細かいところまでフィードバックをもらうことが重要です。その内容に応じてターゲットに向けて検証・改善を繰り返し、試行錯誤をしながら、最終的にクオリティの高いアウトプットを目指します。根本的なアイディア自体も調整していきます。
検証すべき項目が増えてきてしまった時は、仮説にプライオリティーをつけることが重要です。検証のタイミングは一度きりではないので、優先度が高いものから低いものまでバランスよく分類し、検証・改善のサイクルを小さく早く回すことで、精度が高まります。
ここで重要なのは、テストの目的は素直な反応を得ることで、反応がよくなかったからといって、サービスアイディアを必要とするユーザーを探し続けるのは間違いです。テストの結果によっては、数ステップ前からやり直したり、サービス事態をボツにするのも行動計画として一つの選択肢です。
終わりに
VUCAの時代において、デザイン思考の有用性とそのマインドとプロセスについて、触れてみました。
デザイン思考のプロセスは、必ず厳守されるべきものではなく、プロセスを意識・重視するという姿勢が大事です。
また、デザイン思考はメソッドではなく、マインドセットです。だからこそ、デザイン以外の領域でも転用できるのです。あらゆる場面で活用できる課題発見から問題解決できる体系化したプロセスなのです。
それでは最後に、アメリカの大手自動車メーカー フォードモーターファウンダーであるヘンリー・フォードの言葉を引用します。
If I had asked people what they wanted, they would have said faster horses.
フォードモーター創設者 ヘンリー・フォード
以上、最後までお読みいただきましてありがとうございました!